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 マシュマロ 
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  ペンギンの見る夢

 

 ペンギンは想う。自分の故郷を。
 ペンギンは思う。目の前の摩天楼を。

 

 ペンギンは寒冷地だけが生息地ではない。
 このペンギンは南米の比較的温暖な地域に生息する種だった。
 だから、今自分が立っているこの地が「寒い」と感じた。

 

 何があったのかは分からない。
 気が付けば見知らぬ地にペンギンは立っていた。
 目の前の川を隔てて、煌びやかな建造物が立ち並んでいる。

 

 何があったのだろう、とペンギンは思案する。
 寒い。誰もいない。寂しい。
 寒さに震えながらペンギンは仲間を探す。

 

 どうして、とペンギンは嘆く。
 自分は何かしたのかと。
 ただ、何事もく平穏に生きてきただけなのに。

 

 ただ、寂しくて、ただ、辛くて。
 途方に暮れて、ペンギンは歩き続ける。
 歩いて歩いて、最後には歩き疲れて、倒れるように眠りについた。

 

 ――声が聞こえる。
 聞き慣れた、仲間の歌声。
 目を開けると、そこは自分の島。
 どうしたのか、と仲間が問う。
 ペンギンは語る。己の体験を。
 仲間は答える。それは夢だと。
 大丈夫だと仲間は云う。
 だから踊ろう。いつまでも。

 

 ペンギンは踊る。
 見た夢を忘れるように。
 ペンギンは回る。
 これからを夢見て。

 

 

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