遥か遠き理想郷
レールを走る列車は音もなく滑るように目的地へと向かっている。
理想郷へと続くレール。
完璧な都市。希望に満ちた都市。
移住を許された人間は何一つ不自由なく過ごせるという。
そのため、移住希望者は後を絶たない。
それゆえ、移住希望者には厳しい移住審査が行われる。
突然列車が止まり、全ての窓が開け放たれる。
窓から多数の飛行機械が侵入し、移住希望者の前で止まる。
機械のアイボールが希望者をスキャンする。
希望者の戸籍による身元調査、センサによる検査、全ての情報が審査にかけられ――
無機質な音声があちこちで移住の拒否を告げる。
直後、車両内を煌めく複数の光線。
ぽとり、ぽとりと審査落ちした人間の首が床に落ちる。
機械がアームを伸ばして床に落ちた首を拾う。
首を拾った機械が窓から外に出て、首を捨てる。
外に広がるのは緑が広がる草原。
捨てられた首が花のように草原を彩る。
全ての機械が飛び去り、列車は再び動き出す。
首のない死体と、許された人間だけを乗せて。
列車はアーチをくぐる。
「ようこそ、主の理想郷へ」
アーチの先にあるのは希望か絶望か。
その都市から出てきた人間は、誰もいない。